Goutorbe Bouillot Brut(グートルブ・ブイヨ・ブリュット)を飲む

飲んでみて

今回取りあげるグートルブ・ブイヨは自家農園で収穫したブドウで生産から販売まで手がけるメゾンでRM(レコルタン・マニピュラン)と呼ばれる業態の生産者である。ちなみに今まで取りあげたゴッセやパイパー・エドシックは栽培農家から自分のシャンパーニュに合うブドウを買いつけて生産しているのでNM(ネゴシアン・マニピュラン)と呼ばれている。

よく冷やした状態(氷水を張ったバケツに30分入れた状態)で抜栓すると、洋梨やグレープフルーツの芳しい香りがあふれてきた。たおやかで柔らかい香り立ちだ。それでいて溌剌としたニュアンスもある。飲んだ感じも清々しさもあればまるみのある熟成感もあり個性をひとくちには言いあてられない複雑さがある。よいシャンパンのあらゆる要素があるが、どれかに振っているわけでなくあらゆる要素を控え目に持っていて、中庸をいくシャンパーニュである。この個性のなさこそがGoutorbe Bouillot Brutの最大の特徴ではないか思った。そして温度を上げた状態(グラスに入れて30分以上放置)でもよかった。よく冷やした方がよいのか、それとも冷やさないほうが判別ができなかったので、どちらでもよいと思う。これもなかなか他のシャンパーニュにはないことである。

長次郎 大黒

このシャンパーニュは樂家初代の長次郎の黒樂茶碗「大黒」や赤樂茶碗「無一物」に通ずるものがある。長次郎の代表作であるこれらの茶碗は個性を消しているのでまわりのものに紛れて存在すらも見過ごされそうだが、それがないと物足りなさを感じさせるような、こういったら大袈裟になるが画竜点睛を欠いたことになることに気づかされるのである。これは非凡である。たいていの茶碗は何かしらの作為があって一見それはよく見えるのだが、長次郎の「大黒」や「無一物」を見てしまうと、その個性がかえってうるさくなってくる。そんなに我を張らなくてもよいのにと思えてくるのだ。いくつもの茶碗を見たあとで長次郎の名碗を見てみてみると、うるさいところがまったくないことに気づき、この茶碗の良さに感心してしまうのだ。

このシャンパーニュもいろいろなシャンパーニュと飲み比べをしたときにこの中庸さ、個性の無さ、我を張らない奥ゆかしさ、控え目さ、それでいてあらゆる要素を持っていることに驚嘆するだろう。料理の相性もかなり広いように思える。今回は香草をまぶした豚のロース肉をソテーしたものと合わせてみたが、相性はよかった。

この作り手はエペルネの西方数キロのところ、マルヌ川の上の方にある。ヴァレ・ド・ラ・マルヌ(マルヌ渓谷)と呼ばれるシャンパーニュの一大生産地にある。ボトルの下の方に”REFRETS DE RIVIERE”とあるのは川に反射する日光のことである。日の光が多いところなのだろうか。Google Mapのストリートビューでメゾンの周辺を見てみたが、川面の反射をうけるようなところではないので象徴的な意味なのだろう。このシャンパーニュの特徴としてソレラシステムで作っていることである。これはシェリー酒を作るときの製法で、樽にあるいくつもの年代のワインを古い樽から抜いていき、減った分を新しい年代の樽から補うもので、熟成と新鮮さを併せ持っていたのは、このソレラが寄与しているのだろう。このシャンパーニュは常備しておきたいと思った。

このシャンパーニュの仕様

ブドウ品種構成:ピノムニエ60%、ピノノワール20%、シャルドネ20%

甘辛度:ブリュット

ヴィンテージ:NV

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