前回に続きフランソワ・ビリオンである。今回はエクストラ・ブリュットである。ブリュット、エクストラ・ブリュットは熟成を経たシャンパーニュを出荷前に澱(おり)を抜いた後に1Lあたりどれくらい糖を入れたかによって決まってくる。ブリュットは12g以下、エクストラ・ブリュットは6g以下となっている。シャンパーニュはブドウ栽培の北限にあたり、ブドウの品質も安定しないので一定の品質のワインを出すために、ほかの地域ではできないこともできるような法律がある。できたワインに糖を加えることが認められているのもシャンパーニュ独特の原産地呼称法があるからである。ブリュットとエクストラ・ブリュットの違いは加糖する程度の違いとは知っていたが、今回あらためて注意してみるとブリュットカテゴリーとエクストラ・ブリュットカテゴリーがかぶる部分があることに気づいた。1Lあたり6g以下は法律ではブリュットでもエクストラ・ブリュットでもよい規定があるので、このあたりは生産者の恣意にゆだねられているのだろう。エクストラ・ブリュットはブリュットよりも一般的でないので、6g以下の加糖でもブリュットで出したい生産者もいるのであろう。このあたりのことは調べ始めると深いので、おいおい調べたことを記事にあげていきたいと思う。
今回もよく冷やした状態で抜栓すると、ブリュットと同じようにパン種の香り(イースト香)があったが、ブリュットほどではない。ブリュットでは感じられた甘さはなく、酸味を感じた。たいていはレモンだとかグレープフルーツだとか柑橘系の香りがあてはまるのだが、今回も果物の香りはなかった。アスコルビン酸の香りが近いと思う。
飲んでみると、レモンをかじってるような酸っぱさを感じた。この酸っぱさは攻撃的ですらある。このシャンパーニュの名前にあるキュヴェ・マリー・カトリーヌは作り手の家族の名前である。家族の名前を冠するくらいなので、もっとも力の入った渾身のシャンパーニュだと思い期待していたが、酸が強すぎるので味わうどころではなかった。前回のブリュットはいろいろな料理と合わせられそうな守備範囲の広さがあったが、今回のエクストラ・ブリュットは合うものは限られるてくると思う。今回はエビチリと合わせたがかろうじて合わせられるといったたぐいだった。ちょっと何に合うかわからなかったので料理屋のサービスの方に今度聞いてみようと思った。
飲んでいて自棄になってきた。それはどうにもならない酸のせいである。この酸を利点に変えることはできないか。考えた末、スイカはどうであろうかと浮かんできた。日中暑かったのでスーパーに並んでいたスイカがよく見えたので買っておいたのである。冷えたシャンパーニュにスイカ。この組み合わせはお店ではみないが、見た目はそそられる。このアイデアに気をよくして並べてみると夏向きである。味はともかく目で楽しむことには成功した。で、飲んでみるとシャンパーニュがバシャバシャになってしまってあっけなく期待は粉砕されてしまった。
スイカすら甘さがぼやけてしまい悪い組み合わせだった。水を飲んで口なおしをするはめになってしまった。このレモンをかじっている酸っぱさを救う方法はないのか、いろいろ想いをめぐらすと昔ロンリコ151プルーフをトニックウォーターで1対1で割って、レモンをブツ切りにしてもらったものをかじりながら飲んだことを思い出した。151プルーフなので75度のアルコールである。それをトニックウォーターで半分に割っているので40度弱のアルコールである。それくらいの度数のラム酒を飲みながらレモンをかじると、レモンが柑橘系の果物であることがわかるのだ。レモンが甘く感じたのだ。この酸っぱいシャンパーニュは強い度数のラム酒で甘く感じることができるのではないかと期待したのだ。つまりラムを飲みながらシャンパーニュをチェイサーにしようと考えたのである。
ちょうどSt.Jamesが残っている。ヘミングウェイがパリ時代に新聞の記事を書き、創作に励んできたとき冬の寒さから暖を取るために飲んでいたマルティニック産ラムである。ラム酒の瓶を出したときにスイカのときと同じように奇想天外な組み合わせに期待が高まった。ラム酒を口にし、口の中が熱くなったところで冷えたシャンパーニュを飲む。シャンパーニュは完全にどうでもよい飲みものになってしまった。結局、何にも頼らず酸っぱいままのシャンパーニュでどうにかこうにか空けることとなってしまった。これはもっと熟成させたほうがよかったのだろうか。NVなのでさっさと飲むものと思っていたが、そういう考えはものによってはあらためなければいけないのか。いろいろと疑問の残る体験だった。それはそれとして、外ではできない組み合わせを試すことができたのは面白かった。
このシャンパーニュの仕様
ブドウ品種構成:シャルドネ100%
甘辛度:エクストラ・ブリュット
瓶内発酵後4年熟成
ヴィンテージ:NV
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