ボランジェは一口にいうと飲みごたえのあるシャンパンだ。ビール界のギネスというイメージを持っている。しっかりとした味わいのシャンパンである。荘重なといったら大層ぶって聞こえるが、あながち間違いではない。大手メゾンのなかでも味わいが濃く、重いものの筆頭に思い浮かべる方もいると思う。なのでボランジェは渇きを癒すため何か冷たいものをというよりも酒を飲みたいからといった理由で選ばれるシャンパンである。飲みごたえでいったらまぎれもなくボランジェは極点にある銘柄だ。重くありながらキレがあり、それで余韻があるので底をみせないダンディーといった趣きがある。
そういうイメージを持っていたが、今回のボトルには失望した。なぜかというと香りが立っていないのと、味わいにムラがあったからだ。水がまざっているような味わいのない真空地帯のようなところもあれば、エキスを飲んでいるような感じもあって締りのないメチャクチャなところがあった。2杯飲んで杯を重ねるのが嫌になってきたので、温度を上げた状態を確かめようと別にとっておいたグラスのを飲むと葛湯を冷ましたような変な感じがあった。
以前シャルル・エドシックのときに状態が芳しくなかったので凍らせたことがあったが、今回も状態が悪いのではないかと疑った。今どき温度管理をしていない業者はないと思うので、悪くなるとしたら古くなったことぐらいしか考えられない。
このところ日常的にシャンパンを空けるようになってシャンパンは鮮度が重要だと思っている。以前シャンパンはいつまでも取っておくものではなく出荷されたときは飲みごろなのでさっさと飲むものだということをテタンジェを見学したさいに聞いたことがあったが、そのときは真に受けずメーカーの宣伝文句ぐらいに聞き流していたが、今はそういうものだと実感している。
状態の悪さはデゴルジュマン(澱抜き)をしてから何年も経ったものをつかんでしまったのだろう。ひょっとしたら一昨年のクリスマスのロットの売れ残りかもしれない。ボランジェはメジャーな銘柄で出荷量も多いので輸入業者も大量ロットで入れてきているのだろうから、売れ残りの古くなったものを買ってしまった不運に遭ったのだろう。
ここで業界に提言したいのはシャンパンは鮮度が重要だということを消費者に伝え、ボトルにデゴルジュマンの時期を刻印して、なるたけ消費者に古いものをつかませないようにしてほしいのである。もしくはデゴルジュマンから2年くらいたったものは見切り価格で売るとかして不運な消費者をなくしてほしいのである。シャンパンを飲んでつまらない思いをするようなしけた話しはなくなってほしいと願うのである。
凍らしてみようかと迷ったが、結局翌日の状態を見ることにした。
前日の失望感はなんだっただろう。2日目の杯からはふくよかで厚みのある柔らかな香りがただようのである。温度は軽くひやした程度で10度から11度くらいだと思う。いい白ワインのようなとろみもあって飲んでいて愉しいのである。焼きリンゴの芳醇な味わいがやわらかい酸に包まれていて、また懐の広さを見せてくれたのだった。何回も飲んでいるのにまだ知らない魅力が残されているとは。ボランジェの奥深さを感じた1本だった。
このシャンパーニュの仕様
ブドウ品種構成 | ピノムニエ15%、シャルドネ25%、 ピノノワール60% |
甘辛度 | Brut |
デゴルジュマン | 不明 |
ヴィンテージ | NV |
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