ここ3回はル・メニル・シュル・オジェ村の生産者のシャンパンが期待外れで喜びを見出すことができなかった。そもそもル・メニル・シュル・オジェ村の生産者というだけで過大な期待を寄せていたのだ。それは同じ村を拠点とするサロン(Salon)やクロ・デュ・メニル(clos du Mesnil)の盛名によるところが大きい。実際のところ飲んだことのないシャンパンがはたして私に感銘をあたえるかどうかはわからないが、たいへんな評判なので今までにない満足感を与えてくれるだろうと思っている。大袈裟になってしまうが私のなかではこの2銘柄は神格化されている。ただ、そんな盲目的な期待もフランソワ・ビリオンにより水をかけられたことで懐疑的になったのはよいことだと思った。なにごとも他人のつくった評判を鵜呑みにするのはよくない。シャンパンはほかの地域のワインとは違い、製造の過程で人手がかかるので同じ地域の同じブドウ品種だからといってイメージできるようなものではないので、ル・メニル・シュル・オジェのものだからといって過度な期待はせず、ほかのル・メニル・シュル・オジェの作り手のものをいろいろ試してみたいと思った。
さて、今回は確実に喜びたいのでフィリポナ・ブリュットを選んだ。この選択はほとんど契約といってもいいくらいだ。このシャンパンとの出会いはパリ8区にあるアピシウスだった。グラスでシャンパンを注文したらマグナムボトル(1.5L瓶)でサービスをしてくれたので気分があがったのを覚えている。レストランのある瀟洒な佇まいの館も豪勢な気分にひたりたかったので申し分なかった。おそらくこの館に匹敵するような場所で食事をするとなるとエリゼ宮くらいしか思い浮かばない。あとで知ることとなったが、館はルイ16世の弟君である旧アルトワ伯のかつての住まいだったのだ。
このシャンパンを飲むとアピシウスで初めて飲んだときのことを思い出す。マグナム瓶なので片手で持つには重すぎると思うのだが、それを普通の瓶と変わらぬ動作でサービスする光景になにかトリックにかけられたような不思議なことのように思えたので、サービスの方にそんな軽々とやっていますが実際はそうとう重いですよねと聞いてみると、もちろん重いですよと率直な答えが返ってきたのが面白く、ならばエクソサイズになりますねと言って、なごんだことを思い出す。とても良いシャンパンだったので銘柄を確認するために2杯目を注文してその名を頭に刻みつけたのだった。好きなシャンパンであることはわかっているのだが、どこが良かったかははっきりしていないので今回は確かめてみることにした。
よく冷やした状態で注ぐとブラッドオレンジに柚子をちょっと入れたような嗅覚をひきしめるような香り立ちがあり、そのあとから控え目にグレープシードオイルの香りがついてくる。嗅覚によいことをさせているような感じがあった。味わいは柑橘系だがレモンやライムのような輪郭のはっきりしたものではなく、オレンジピールのような酸味よりも香味がまさるような感じで、ほのかに甘みがあった。喉を過ぎたあとに喉の奥から鼻にぬけるハチミツの甘みが心地よい。余韻がのびやかで長いのが素敵。
瓶の後ろに注目してみた。NVなのにVendange(収穫年)が2013年とあるのはどういうことだろう。リザーブワイン(シャンパンを仕込むときの自前のワイン)が30%とあるので、そのリザーブワインの収穫年が2013年で、ほかはわからないからNVなのだろうか。これはメゾンに質問してみよう。
このシャンパーニュの仕様
ブドウ品種構成:ピノノワール65%、シャルドネ30%、ピノムニエ5%
甘辛度:ブリュット(ドサージュ8 g/L)
ヴィンテージ:NV
デゴルジュマン:2018年2月
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